まぁカレンと口論になり、伊織と響子が止めに入って三和があきれて、笑い出す響子っていう、おかしなことになりました。
そんなことがあった二日後、俺と伊織、響子と三和の四人でその二人と待ち合わせする場所で待っている。ちなみにカレンがいないのは「アイドル業が忙しいから」だそうで、俺との口論はまったく関係ないらしい。現に俺のケータイには「状況は教えてネ(^^)」って顔文字入りのメールが来てるから。
ここは俺達義兄妹の住んでる場所から駅二つ分だけ隣の場所で、どちらかというとカレンや響子たちの家や学校に近い。要するにこの辺一帯は|清桜《せいおう》学園の生徒たちが多い場所なのだ。 その学校の近くの噴水のある公園内で俺たちは待っていた。 少しの間日常会話をしていると、そろいの制服で歩いてくる二人の女の子が遠目から見えた。「あ、来ました。お~~い!! こっちこっち!!」 歩いていた二人も気づいたようでパタパタと走ってくるのが見える。 俺には遠目に見えた時点で顔までは見えなかった。やっぱり運動してる人ってすげぇなぁって感心した。「えと、紹介します。この髪の長い子の方が遠野弘子《とおのひろこ》。で、髪の短い方が妻野裕子《つまのゆうこ》二人とももちろんバドミントン部です」
二人ともペコっと挨拶したけど、なるほど見るからにあまり体調は良くなさそうだ。特に遠野という子はもう青白い顔をしている。そして大事なのは二人から同じアノ感覚がする。 間違いなくこの二人はその影響下にあるみたいなんだけど。確かに感覚はするんだけど……直接的に憑いてるとかじゃないみたいで今は対処できそうにない。「今日はここまで来てくれてありがとう。体調はどう?」
「えと……あなたが藤堂くん?」 と遠野。「なんかちょっと……」 と妻野。――う~んその先を聞きたいような、聞きたくないような。言いたいことは何となくわかっ
「な、なんで俺? ファン?」「あのね! 今までの私が関わったことをちょっと友達に話しちゃったんだよね。そしたら大野クンがお義兄ちゃんと話してみたいって、今日のことも話してたからついてきちゃって」 かなり困惑気味に下を向きながらぼそぼそと話す。こんな意外な姿の伊織を見るのが初めてな俺も結構困惑している。「か、カレシとかじゃないの? 伊織の」「ふあぁぁ!? ち、違うよぉぉぉ!!」 じたばたする伊織。「そうなのか?」「ぜっっっったいい違います!!」「お、おう!! わかったよ」――か、顔が近いです伊織さん。まぁとりあえずこっちの話はいいとして……。「大野くん、君に一つだけ聞いておきたいんだけど、君も視えるのかい?」「「「え!?」」」 俺の一言でみんなの視線が一斉に彼に集まる。 これには伊織もビックリしたみたいで隣で目を見開いて彼をみていた。「あはは、ハイ。視えてますよ」 迷いもない一言。「お、おう。そ、そうか」「ええ、藤堂さんから話を聞いて、お兄さんも視える人だと知って嬉しくて!! しかも活躍してるって言うじゃないですか!! これはもう会ってみるしかないなって思って今日無理して連れて来てもらったんです!!」――かなり熱のこもった説明だけど。ウチの義妹が「呼んでないもん!!」って唇を尖らせてるけど、分かってんのかな?「で、君は何がしたいの?」「え?」「いやだから、君はついて来て何がしたいんだい?」 唐突な俺の質問に大野クンは固まった。 少したっても彼の口から言葉が出ることはなかった。「ふぅぅ」 俺は一つため息をついた。「いいかい大野クン。ついてくるなとは言わないし、俺の事気に入ってくれてるのもありがたいけど、俺はそんな大していい人間じゃないんだよ」「ちょ、ちょっと何言って……」 カレンが挟んだ言葉を
――時は進んで現在。 こんこん! こんこんこん!! ばん!! ばん!!「お義兄ちゃん!! 連絡来たよ!!」 義妹の激しい目覚まし攻撃により騒がしく始まった土曜日。「入っていいぞぉ~」「入るって……きゃ!!」――言うなり伊織は部屋から慌てて出ていく。まぁまさか俺が部屋でパンツ一丁で腕立てしてたらそりゃ驚くか。「な、なんでそんな格好なの?」「なんでって……寝起きだし、楽だからかなぁ?」「もう!! いいから服着てよ!! 入れないじゃない!!」「へいへい」――別に義兄妹《きょうだい》なんだから入ってくればいいのに。男なんだから見られたって減るもんじゃないし。あ、ただ義妹からのヘイトは溜まってるかも。 なんて思いながらも、入ってこないんじゃ話も出来ないみたいだし、仕方ないから服を着るとしようかといそいそと置いて服を取りに動き出す。「いいぞぉ、伊織入っても」「ほんと? ほんとにお義兄ちゃんっていつも無防備で……」 なんかブツブツと言いながら入ってきたけど、俺の近くに来てもまだブツブツ言ってるし。「で? 連絡が来たんだろ?」「あ、そうだった!! えっと、今週の金曜日の放課後にその娘《こ》のところに行くからどうですか? ってきたよ」「金曜日か……。うん、わかった。じゃぁみんなのところにもそう連絡回しておいてくれ」「わかったぁ」 そう言って部屋から出ていこうとする伊織。「あ、伊織!」「な、なに!?」「金曜日、一緒に行くのか?」「え!? 行こうと思ってるけど、どうして?」「いや何でもない……。じゃぁよろしく頼むな」「変なお義兄ちゃん」 言い残して伊織は部屋を出ていった。 今回の件に伊織がいてくれるのはす
時は少し遡って康介事件で千夜に飛ばされた後の事――。 見えない力で弾き飛ばされた自分《わたし》。 前回、体に入られたお義兄《にい》ちゃんを救えなかったこともかなり心に大きな傷を作った。――情けないな。 そんな心情を抱え込んで悩んでいた。でも情けないままでいいのかと自分を奮い立たせようとする。でもどうしたらいいのかわからない。今まで相対してきたモノ達は、自分がいるだけで無力になったり消えて行ったりしていた。 でも今回目の前に現れたモノは違う。少しだけ力が弱まってるみたいだけど、今の自分とは力の差が違う。それははっきりとわかっている。何より今回違ったことが一つだけある。足がすくんで動けなくなった事。 隣にいるお義兄ちゃんを手助けできなかったこと。それが悔しい。情けない。あの人はまた立ち向かって行くんだろう。その時自分はそのそばに立てているのか? 考えれば考えるほど眠れなくなった私は、水を飲もうと降りてきた居間でまた考え込んでいた。 コトッ ビクッ 突然目の前に出されたコップに驚き体が震えた。「ああ、ごめん驚いたか?」 上げた顔の前には優しく微笑むお義兄ちゃんをの姿があった。「あ、お義兄ちゃん……」「どうした? 眠れないのか?」「うん……」 お義兄ちゃんには、今考えてる事は言えない。そんなことした知られてしまうから。 だから困ってまた下を向いちゃった。 こういう時、お義兄ちゃんはどうするの? どう考えてるの? そんな考えが頭に浮かんできて無意識にクチにしちゃってた。「お義兄ちゃん……は、いつからそんなに強いの?」「俺が……強い?」 あれ、私何か知らない間に口から言ってる。 お義兄ちゃんも困ってる顔してるし。でも、なぜかクチが止まってくれない。「うん。小さい時か
「カレン?」「えぇとね、何となく、ホントになんとなんだけど、そうじゃないかなぁって……あたしは思ってたんだ」「「ええ!?」」 カレンの発言に二人そろって驚く。 これにはさすがに俺と伊織がビックリした。伊織にしてみれば、ここまで俺達には誰にも話してなかったし、俺にさえそんな行動もとっていないはず。だからカレンにそう思われているとは思ってもいなかっただろう。 俺にしてみれば、俺でさえここまで一緒に暮らしてきた|義妹《いもうと》の|他人《ひと》には言えない秘密に気づいたのは本当に少し前で、当人のクチから聞くまでは信じられずにいたのに。しかも聞いたのもつい最近だ。なんとなくカレンに後れを取ったみたいでショックがデカい。「どうして気付いたの?」理央がカレンに聞いた。――うん。俺もそれ気になる。「ええとね、理央にはあまり話してなかったかもだけど、あたしがシンジ君と初めて会ってから少しの間ふわふわ浮いてたじゃない? あの時に伊織ちゃんからの視線ががシンジ君を通り過ぎてあたしに来てるなって感じてたんだ」「そうなのか伊織!?」「ふえぇ!? あ……う、うん」「それからこの前もそうだったけど、あっち側の人たちに会ったりしてるときに、危なくなるとシンジ君の前に飛び出して行ったりするじゃない? あれって視えてるからソコに行けたんだろうなって思ってたのよ」「……」「……」「何よ? みんなで黙り込んで」 カレンがそこまで考えていたなんで全然思っていなかった。たぶんここにいる二人も同じようなもんだろうな。言葉が出てこないとこ見ると。「いや、お前って、時々ポンコツお嬢じゃなくなるんだなぁって思って……」「ポンコツお嬢って何よ!! て言うかアンタどんだけあたしの事バカだと思ってんのよ!!」「あ、いやその……ごめん」
行きつけのファーストフード店――。「えと、改めて初めまして。私は相馬夢乃《そうまゆめの》と言います。で、こちらが内島華夜《ないとうかや》ちゃんです」 二人そろってペコっと頭を下げる。「は、初めまして菜伊籐華夜です。突然変なお願いしてごめんなさいです」 黒い長い髪を後ろで束ね、少し大きいレンズの黒縁フレームのメガネをかけた少女が目の前の飲み物を飲みながら、少し早口で自己紹介した。 見た目は完全に文学少女だ。「初めまして。 俺は藤堂真司。で、隣にいるのが義妹《いもうと》の伊織です」 挨拶した俺と同時に伊織がペコっと頭を下げた。――下げる前になんかじぃ~っと伊織から視線を感じたけど、なんだろう? 顔に何か付いてんのかな? 「あたしは日比野カレン。カレンでいいわよ。よろしくね」「私は市川理央と言います。よろしくお願いします」 次いでカレンと理央も握手をしながら挨拶を交わす。今日来たメンバーは、響子が学校関係の用事で来れないというので、この四人だ。しかし三和繋がりの響子が来れないというのが、関係性的に成り立つのか疑問ではあるけど仕方ない。「えぇと、相馬さんは俺と同じ学校だけど、内島さんはどこなのかな? あ、言いたくないときは全然いいから」 あせあせしながら手を振って大丈夫だよ! とアピールする。なんかカレンに[じとぉ~]って目で見られてるから。「いえ、大丈夫です。と、いうのもこの相談というのも、その学校であった事なんです」「と、いうのは?」 みんなの視線が一斉に内島に集まる。感じ取った内島が顔を少し下げて、恥ずかしそうにしながら話を続けてきた。「私は、三門高校《みかどのこうこう》の一年生です。皆さんも同じ歳ですよね? その、それなら分かってもらえるかと思うんですけど、新しい学校とかで新しい友達が出来たら新しい友達と仲良くなりたいじゃないですか?」 俺には残念ながらそんな心当たりがないので、辺りを見回してみる。みんなはウンウンというように首を縦に振っていた。なんと
ほどなくしてそれから数日がったある日の事。俺は何も用事が無いので家にいた。「お義兄《にい》ちゃん!! どうして私のケータイに知らない女の人から電話とかメールが来てるの!?」 義妹《いもうと》が結構なお怒りモードで俺の部屋に突撃してきた。 何を言ってるのか意味を理解できないでいた俺に、伊織がケータイ画面を目の前に「ほら!!」って感じで差し出してきた。暑くなり始めたこの時期は部屋の入り口は寝る時以外は開いていることが多い。「お義兄ちゃん?」「え? あ、ああそうかケータイにだっけ?」「そうだよ!!」 ぐぐぅ~!! と目の前にケータイがさらに押しつけられてきた。「ほ、ほら!! あれだよ!! 前に伊織が言ってたじゃないか!!」「え! 私が!?」「そうだぞ! ほら! 前にさお義兄ちゃんが知らない……」「わぁぁぁぁぁ~!!」 取が目の前でワタワタしてる。――なんかこういう伊織の仕草ってあんまり見たことないから新鮮だ。しかもかわいいし。「で? これはどういう事? またあっち関係?」「ああ、そ、そうなんだよ実は……」 なぜ知らない女の子から妹に連絡が行くようになったのか、数日前に起きた事を伊織に伝える。「はぁぁぁ」 伊織から大きなため息が漏れた。「お義兄ちゃんってホントにお人よしというか、巻き込まれ体質というか。今回もお話聞くだけじゃないんでしょ?」「そりゃまぁ……知り合いからの紹介って言うか、頼って来てくれたんだからそんなに無下にも出来ないだろ?」「うん、そう……だね」 考えるように小さくうなずいた。「わかった。じゃぁ私から連絡取っておくけどいつがいいかな?」「そうだなぁ、次の土日とかでいいんじゃないかな?」 伊織は「オッケー」と言い残して二階の自分の部屋へと戻って行った。